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京町家再生研究会

上七軒の町家

丹羽 結花(京町家再生研究会)
 再生研1月例会では、設計塾の塾生も参加して、いっしょに上七軒を訪れました。北野天満宮におまいりして、網野さんのご自宅を訪問し、再生研の会員でもある黒竹節人さんのお店「くろすけ」で新年会を開きました。当日は、黒竹さんが紋付はかまでお迎え。開始時間に行き違いがあったため、お待たせしてしまったこともあり、恐縮しながら、2階に上がりました。2部屋をつなげた座敷のぐるりにお膳が並んでおり、久しぶりに町家らしい宴会。お正月らしく華やかなひとときを過ごすことができました。

 はじめに黒竹さんから「くろすけ」の改修と昨今の上七軒について、お話をいただきました。

 「くろすけ」は明治初年に建てられたお茶屋を13年前に改修したものです。新年会の場所は舞妓さんたちの日常過ごしていたところだそうで、浅黄色の壁はこの空間が非日常であることを語っています。「上七軒の雰囲気をきちんと残しながら、大事なことを伝えていきたい」そういう思いで改装したそうです。めくって見たらこんな色の壁が出てきたので、花街らしい色合いに再現されました。

 上七軒ではお茶屋さんや飲食店で「匠会」を結成、「あまり行き過ぎないようにしよう」という申し合わせがあるそうです。上七軒もこの10年ほどで随分と変わってきました。大きなお茶屋やお店も閉じるところが次々と出てきます。人手に渡るとこれまでのスタイルが変わってしまいます。住宅に変わってしまうと表が駐車場になってしまい、町並みにも違和感が生じます。できれば新しい店舗として引き継ぎ、和やかに溶け込むような町並みを維持しながら、中に入るとそれぞれのにぎわいがある、そんなまちづくりにみなさんで取り組んでいるそうです。北野天満宮や歌舞練場と一緒に、風情を残しながらにぎわいを作ろうとしています。

 黒竹さんのお話の後は、美味しい料理(ずいぶんサービスしていただきました)と昼からアルコールで、設計塾の受講生同士の交流はもちろん、スタッフとも打ち解けて、なごやかなひとときを過ごすことができました。

 お開きのあと、大きなおまけが!「せっかくなので、もう一つ」と、黒竹さんがホテル旅館「億」に案内してくださったのです。多くの方がよくご存知だったレストランが閉店、残された大型町家を3年前に黒竹さんが引き取り、高級町家ホテルに改修されました。1泊15万円もするお部屋もあるのですが、海外の方々は連泊されることも多いとか。一体その秘密はどこにあるのでしょう。

 表はしっかりとした町家の風情です。入り口を入ると東側はワインバーになっていて、宿泊者でなくとも利用することができます。西側にはフロント、クロークがきちんとあり、スーツを着た女性が対応してくださいます。とてもゴージャス、まさにホテル! 廊下や階段はいかにも現代風で、扉にはキーがついていて、セキュリティがしっかりしています。

 特別にこの日空いていたお部屋を次々と見せてくださいました。共有部分に「町家」らしさは見られませんが、お部屋に入るとなんと広々とした感じ。個性的なお風呂やふかふかしたベッド、モダンなしつらえなどが、部屋ごとに雰囲気を違えて展開しています。畳との組み合わせや天井の高さとのバランスなどもいくつかバラエティがあります。しつらえもさまざま。お食事をお部屋でとることもできますし、舞妓さんを呼ぶこともできます。

 高級旅館のような至れり尽くせりはしんどい、ゆっくりシンプルに泊まりたい、でも和風がいい、という方々にとっては自由にくつろげる、とてもステキな場所です。黒竹さんは祇園にももう一つ同様の高級町家ホテルを手掛けており、こちらも人気だそうです。

 一般的な町家のゲストハウスとは大きく違うことがおわかりでしょうか。大型町家ならではの活用として、こういうのもあるのだなあ、と思いました。若い人たちにはちょっと刺激的なところもあったようですが、同じお茶屋の改修事例2つを見ることができ、比べることもできたようです。どんなふうに感じたでしょう?

 
思い起こせば、第2回町家再生交流会でさんざん苦労した上七軒でした。3年前に電柱を無くして石畳風にした道もなんだかさっぱりして、気持ちの良いところになっています。京都の落ち着いた花街として、多くの方がゆっくり過ごしていただけるまちになっています。そして、そのために努力しているみなさんがおられることは、大いに励みになりました。

2018.3.1