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京町家再生研究会

姉妹で引き継ぐ「普通」の町家――北区・Ez邸

丹羽結花(再生研幹事)

ファサード(写真提供:内田康博)
 代々町家に住み続けるといえば聞こえはいいが、貸家の場合は大家さんにとって気が気でないことがある。家賃は上げられない。中がどうなっているのかわからないまま、月日が経ってしまうケースも少なくない。Ezさんの貸家もそういう状態だった。借家人家族が3代ほど住み続けている間に、ニワサキにハナレが増築された。メンテナンスに見合う家賃をいただくこともできず、借家人が不具合を申し立てても、十分に対処できない。足を踏み入れることすらできなくなっていた。最後まで住んでいた老人が退去した後、Ez姉は今後のことについて悩んだ。そのまま貸すには傷みがひどい。ずいぶんと修理する必要がありそうだ。建て直すのも大変だ。そもそも人様に貸すと管理面の心配が残る。とりあえずこのまま使えるのかどうか、家の状態をみてもらおうと、京都市景観・まちづくりセンターに相談し、工務店を紹介してもらった。幸い傷みはひどかったものの、その箇所が限られていた。昭和初期の建物で、貸家の割には良い材料を使っており、大黒柱もしっかりしている、という。そうなるとつぶしてしまうのはもったいない気持ちになった。数軒北の実家に住む両親も当初は消極的だったが、「なくすよりも残す方向で」少しずつ説得してみた。一方、妹夫婦は住んでいたマンションを短期間で出なければならないことになった。次の住まいを探していた妹夫婦にとってもちょうどよいタイミング。こうして、主に姉が改修を計画し、妹夫婦が住み継ぐことになった。

 夏、引っ越し期間とのかねあいで、タイトな日程となった。予算も十分ではない。そこで傷みのひどい部分を優先して改修することになった。とりあえず住める形にしよう、という方針である。表のヒトミ梁と裏手の床梁がともに蟻害と腐朽でひどく傷んでおり、とりかえると同時にファサードを整備した。妹さんの数少ない希望は、土間のハシリはつらいので、床をあげてキッチンにすることくらいだった。お風呂など水回りも使いやすいように整備し、ハナレとの間に風が通るようにした。通路には透明の屋根をかけなおし、大きな窓を設置したため、明るい場所となった。ハナレを取り壊す案も検討されたが、たくさんの本を収めるにはちょうどよいので、ご主人の書斎としてそのまま利用することにした。2階のファサードには工事を担当した山内工務店さんがさがしてきた木枠のガラス戸を入れる。賀茂川に向かって明るい光と風、緑を運び込んでくれる。大規模な改造をせずとも、しっかりと快適な住まいとしてよみがえった。

 姉妹とも改修工事や住むことにおいて、困っていることはないという。イタリア人のご主人もマンションよりも住みやすい、と町家の暮らしに満足している。姉妹とも幼い頃からいくつかの「古い家」に住んできたためか、町家に対して過剰な期待をもっていなかった、という。近くに実家もあるので心強い。さすがに冬となり、建具のあわせめから隙間風が来るのには難渋するが、主に過ごす部屋は一室に限り、寝室も少しでも暖かい場所に移している。

 妹さんにはゆくゆくは資格をとって、メイクアップ関係の仕事ができればいいなあ、という夢がある。自然光が入るミセノマはお客さんにゆっくりとしてもらえる、落ち着いた場所になるはずだ。今は仕事とそのための勉強で、自宅でゆっくりする時間があまりないが、そのときには今回及ばなかった内部の改装も計画できるだろう。住みながら少しずつ住まいに見合った計画をあたためていく楽しみもある。

 ともすれば華やかな利活用やモダンな改修が注目を集めがちだが、あたりまえの暮らしができるこのような町家再生が一つでも増えていけば、町家そのものが再び普通の住まいとして成り立って行くのではないだろうか。町家のよさってなんだろう。そんな素朴な問いがEz姉から発せられた。町家が継続してきたことにはそれなりの理由があるはずだ。だから、今、うまくいかない部分があるからといって、一気に捨て去ることはない。普通の住まいで普通の生活ができるのであれば、そのまま使ってみる方がいいのではないだろうか、という。せっかく町家があるのだから。そんな自然な考え方の姉妹をみていると、私たちのこれからの活動にも少しは希望がもてる。これから貸家の空き家がどんどん増えていくだろう。あたりまえの住まいとしてシンプルに再生していくことのよさ、徐々になおして、普通に暮らせることの魅力を伝えていく必要がある。
2013.3.1