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京町家再生研究会

職住一致の旅行業――中京区株式会社グローカル

内田康博(再生研幹事)

ファサード
 ちょうどひと月前に新装開店したばかりの旅行代理店、株式会社グローカルにおじゃましました。この家を購入したのは10年ほど前のこと。マンションはどこか窮屈に思われたので、街なかの便利な場所の一戸建て、という規準で選びましたが、いわゆる京町家らしさの見られない、モルタル壁とアルミサッシの中古住宅でした。3年ほど前に経験を活かして自宅の一部をオフィスとして旅行代理店を開業され、ゆくゆくはオフィスらしく改装することを考えていました。旅行が好きで、ヨーロッパをはじめさまざまな国を巡り歩き、伝統を受け継ぎながらも豊かな暮らしが垣間見られる美しい町並みに魅力を感じていました。また、海外の旅行者を京都でもてなすのに社寺ばかりでなく町家や町並みを案内することが多く、京町家にも海外の伝統的な町並みに負けない魅力を感じていました。昭和30年代から40年代におおきく改修されていた自宅がもともと京町家といえるほどのものとは思っていませんでしたが、2階の天井から突き出す丸太の梁からやはりもともとは伝統構法の建物ではないかと思え、改修するなら、是非、伝統の素材やデザインを活かし、伝統の技術でと考え、作事組を尋ねました。早速、担当者が調査をすると、伝統構法の京町家であることがわかりました。ちょうどそのころ楽町楽家のイベントがあり、作事組の「職人さんのお話の会」が2度の日曜日に夫々2回開催され、それをすべて聴講し、町家について、伝統構法について、職人さんの技について知識を深めるよい機会となりました。計画を予算内に収めて着工し外壁のモルタルや内装の合板をはがすと元々の出格子の骨組みや土壁が顔を出しました。柱を取り払って鉄骨で補強してあるなど無理な改修も見られましたが、元の位置に柱を復元し、落ちた土壁はもと通り塗り直しました。店の間は土間としてオフィススペースにしました。京都では格子のデザインに職業の名前がついていますが、旅行業の格子は例がないので、ご自身でオリジナルのデザインを考案し、「旅行業格子」と名付けて楽しまれています。2階に追加した間仕切り壁には大きな丸窓と下地窓を設けるなど、通風、採光を確保しつつデザインを工夫しています。予算の厳しい中、キッチンを諦めた分お風呂には高野槇の浴槽をいれるなど、第一段階としては心残りなく改修が終わりました。竣工時には町内ご近所の皆さん向けに見学会を開催してお披露目をし、町並みが美しく整ったことを喜んで頂きました。


玄関の吹き抜け
 海外を旅行するなかで、伝統が息づく町並みに触れ、仕事と生活が一体となり、町の機能と生活スタイルが一致し、古いものと新しいものが調和し、見事な景観を形づくっている姿に憧れていましたが、それが京都でも当たり前に存在し、自分たちもそんなふうにできるはずと感じておられるとのこと。改修後は木と土で仕上げられたオフィスが出格子と吹き抜けの窓からの光で明るくなっただけでなく、近所の人が前よりも気安く声をかけてくれるようになりました。町家の雰囲気に合わせるべく家具の選び方が変わり、骨董めぐりも楽しめるようになりました。社名のグローカルは、"Think Globally, Act Locally!"(広い視野で地域から行動)から名付けたとのこと。京町家のオフィスが社名を体現し、お仕事が益々発展することと思います。大きな旅行代理店では手に余る、個人の細かな希望をとりいれた旅行の手配が得意、とのことですので、海外旅行におでかけの際は、一度ご相談されてはいかがでしょうか。
2013.1.1