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京町家再生研究会

セルフビルドのシェアハウス──「土間の家」にて、仕事とは何か、を考える

丹羽結花(再生研究会幹事)

提供:土間の家
 セルフビルドとシェアハウス、いずれも近年、注目を浴びている手法だが、一年前に実現した「土間の家」を訪れると、私たちが本来しなければならない仕事とは何か、これからの課題をつきつけられた気がする。

 ここには建築を専攻する学生3人(現在は一人が物理系の学生に替わっている)、うち一人はハンガリーから夫人と来日、この家で生まれた赤ちゃんの3人家族、さらにドイツから来た元留学生、計6人が住んでいる。建物は、二戸一の2階建て長屋の南側に大きな作業場が接しているもので、長屋の一つと作業場を一体として使っている。以前は大工さんが住んでいたらしい。長屋は一列3室型の基本形。作業場の一部、長屋に面した部分の床を上げ、奥は台所、中の間は居間として使用しており、道路に面したところはまだ作業中である。残りの南側半分は土間のまま。いずれも小屋裏がそのまま見え、訪れた初夏には建具もあまり入っておらず、町家にしては明るく広々としている。

 「古くてよいので、自分たちが手を入れることのできる町家」を探していたところ、情報センターの城氏を介して、この町家と巡り会った。作業場の大屋根など、作事組により構造改修済み、と聞き、安心して入居したが、実際にはやり残しがあった。作事組内では認識していたようだが、店子である彼らにまでは伝わっていなかったようだ。当初改修が及ばなかった部分、構造材を差し替えるなど、追加の構造改修がおこなわれた。

 その後の壁の塗り替え、床の張り替えなどは自力でおこなった。水道など設備も、自力で対応できることは工夫してそれなりにやっている。不要な物を取り除き、材料を集め、工具を手当てし、作業を続けながら、住まいしている。

 長屋部分の1階奥がハンガリー人の家族、その上とミセノマの2階に当たる部分に各人の居室がある。蚊帳で囲まれたベッドやテントでの寝起きなど簡素な生活だが、彼らなりに快適に暮らしている。ところどころにマックのコンピュータがあり、居間の上にDJブースも完備しているあたりは現代的である。


 北隣の家との共通の壁を補修したエピソードはいろいろなことを教えてくれる。隣家は高齢者の住まいで台所になるので、許可を得て2日間の時間をもらい「特に集中して」壁の補修にとりかかった。こちらで補修しなければならないくらいだから、当然北隣の家でも隙間から風が漏れるなど、苦労していたらしい。「ベニヤで囲ってすっきりした暮らしがしたい」と長年、思っていたそうだが、作業終了後には「お礼がしたい」と申し出があったくらい、土壁が元通りにきれいになったことをとても感謝された、という。

 困っていながら声を出せない人たちがたくさんおられる。しかも、一寸した手助けで気持ちがすっきりする。「つくろい」や「てったい」によって町家の生活は救われる。また、彼らのマイペースな生活や作業のやり方が周辺住民との交流を生んでいる。別の高齢者からは玄関周りの補修について相談を受けた、ともいう。主催する「ムービーナイト」映画鑑賞会では、居間から長屋共通の壁にプロジェクタを投影するのだが、夜9時からというのに若い人たちばかりではなく、ご近所さんも訪れるという(時間は今後変更の予定)。

 あらためて専門家としての仕事を原点に立ち戻り考えてみたい。「とても高級な町家だけがお金をかけて残るだけではなく、普通の住まいとして残したい」「誰かがとても儲かるのではなく、施主、店子、工務店、それぞれに仕事があり、それぞれが少しでも幸せになればよい」という彼らのコメントは印象的だ。儲けに飲み込まれることなく、困っている町家や家族を支える方法を模索するのも再生研の仕事の一つであろう。屋根や基礎など、構造改修についてはプロの力が不可欠だ。限られた予算の中でも最低限の安全を確保できる方法で改修し、補強すること、その重要性を示すことが、作事組をはじめ、施工側には求められる。施主、店子を含めた関係者すべてがその限界を納得し、確認する場が必要であろう。そして、建築に携わる学生や手間を惜しまない人たちとの協働により、できることはやってもらう。片手間の中途半端な造作はごめんだが、ここまでだったら大丈夫という指針を彼らとともに考えることも可能ではないか。若い人たちが経験を積みながら育ち、健全な町家が一つでも生まれていくような仕組みを考えてみたい(なお、進行中の改修については「土間の家」ブログ参照 http://d.hatena.ne.jp/doma_house/)。

2012.7.1