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京町家再生研究会

京町家に生きる感性の表現──中京区・斧屋

冷水隆治(再生研幹事)
  今日もここ釜座町家の「だいどこ」に座し、
  座禅を組むように集中している。
  庭の方から陽が木々の反射で沸きあがってくる。

  ふと絵の具を町家の空気に入れる。
  頭の中で入れた色素は空中に飛び散った。
  瞬間に記憶が消える。

  土壁が追いかけるように、記憶の隙間を埋めていく。
  まるで、春先の田んぼの中に水が入ってくる様に、
  ひたひたと、昔の記憶に覆いかぶさってくる。

  この空気感覚は何だろう。
  今までに無い記憶と過去の記憶が入り混じっている。
  まだ見ぬ南の青い海、新緑の息吹が重なって消える。

  京町家には多次元の志向を呼び寄せる
  木漏れ日の様な風が吹いている。
  未来への生きる感性が満ちあふれている。

■私にとって京町家の再生
 私にとって京町家は町中に住まう事の原点を確認する唯一の建物であり、私達日本人が現代社会生活に行き詰った時に向き合える住まいと思い、向き合っています。永年かけて庶民が知恵を重ねて作り上げた京町家には集まって住まう事の多くの答えがあります。
 私達が未来に生き延びるためのヒントがあり、永年人々が住んだ町家は豊かな感性を含みもっています。その京町家を再生する事の意義はとても大きい事と思います。

釜座スケッチ(140mm97mm)

■京町家での絵画活動
 京町家での絵画制作は私に止めどもなく絵を描かせてくれます。とても気持ちのいい時間が流れる。その感覚の表現に挑戦を致しております。京町家での表現は抽象画となり、描きこむ事による日々発見と挑戦であります。
 どのような表現方法が京町家の空気感覚を伝えることが出来るのか。その制作行為はまるで、前人未踏の氷河を歩いているようです。納得した表現ができるようになるまで永い時間をかけて京町家と向き合うしかありません。
 私の絵画の表現方法は抽象画です。この表現方法は世界中の方々に感じてもらう事ができます。
 ニューヨークマンハッタンでの個展では、まだ見ぬ京町家を多くのニューヨーカーに感じていただきました。「絵の中の京町家に音楽を感じるのは何故だろうか」と多くの方が話していました。ニューヨークは抽象画が爆発的に繁栄した地です。
 2000年以上も脈々と生き続いている元商業の街南仏アルルで描く絵は何故か京町家に居る様な感覚になるのはどうしてか、人々が「集まって住まう」に人間としての共通点があるのかもしれません。
 その共通点は京町家で見つかればとても幸せなことでしょう。

■これから
 これから多くの事を研究したく思っております。
 少し難しくなりますが、西欧の個人主義社会とアジアの共同体意識社会の研究もその一つです。
 日本人の住まい方を研究するにあたり、京町家は日本の市民生活を研究するには的確と思います。西欧近代合理主義を受け入れない時代から京都で進化してきた都会生活のモデルです。
 混迷している日本の生活様式の解決のヒントは京町家に秘めていると……。
 あまりにも西欧近代合理主義に翻弄されてきた私達は多くのものをなくしてきました。今この時期に私達は考える必要があると思います。
 京町家の再生は多くの答えを私達に示してくれるでしょう。
 私達が生きるのに必要な豊かな感性をもった京町家を持続できる事を強く切望しいたします。

2011.7.1