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京町家再生研究会

職住一体の暮らし、家族との暮らし ─中京区・内田邸

高井 奈津子(再生研究会事務局・まちぐらし集団CHOBO)
吹き抜けの土間から茶の間を見る
ダイニングスペースから仕事場を見る
 家具の町として知られる夷川商店街から間之町通りを下った東側でこの春一軒の町家の改修が行われた。元は漆器屋さんを営んでおられたが、2年ほど前から空き家となっていた。
 父からこの町家を譲り受けた大家さんは、改修して誰かに使ってもらえないかと考えておられたが、傾きや雨漏りがひどく、なかなか改修までに到ることができず、悩んでいた頃、作事組と出会った。
 改修にあたって気がかりなことがあった。隣家の二階部分がその町家に侵入してきている。その家の玄関を入ってすぐのミセニワ、ダイドコニワの部分の二階は隣家の二階になっているのだ。元は全体をひとりが所有していたのであろう。隣家にも配慮しながらの改修が始まった。当初はまだ借り手も決まっておらずとりあえずは人が住める状態にすることと、できるだけ元の状態に復元する方針だった。塞がっていた吹き抜け部分を元に戻し、増設されていた部屋も撤去し、奥の水場も整える。しかしその町家の設計を担当している作事組理事でもある内田氏が、借り手候補にあがった。もうすぐ2歳になる娘と、仕事もしている奥さんとの三人家族。娘とのこれからの生活、自分たちの生活スタイルにあった町家を探していた。そこでこの町家を借りるにあたって、自分たちのライフスタイルに合わせた改修案へと変更した。設計事務所を営む内田氏の職場と、家族の生活をする場、町家本来の「職住一体」の形を成す町家再生が行われた。奥に空き地があり、そこも自由に使って良いとのことだったので荷物を収納するための小屋を設置した。本がぎっしりと収納されており、小屋のドアを開け放つと、庭とつながった空間になり、小さな庭園図書館のようになった。二階部分は三室並んでいたが、真ん中にあたる一室を押入れにし、その上にロフトを設置。そのロフト部分には大きな梁が空間を横切る。子供にとっては遊具にもなり、ベンチにもなりこの木と共に生活していく風景が伺えた。はしりの部分は床を上げ、幅が1m40cmほどしかないが、火袋のおかげで狭さを感じさせない。天井からの光も暖かい。

復元された火袋

梁を見せた天井裏収納

ザシキから庭を見る。奥に書庫小屋
 また、内田夫妻は暮らしの仕方としても職住一体の暮らしを選んだ。やはり父の働いている姿を側で見ることができることが子供にとっては良い環境ではないか、と内田夫妻は言う。今は働く両親の姿を間近で目にすることはなかなかない。ただ疲れて帰ってくる顔をみるだけかもしれない。この家では父の仕事の内容、また苦労も肌で感じることが出来るのではないだろうか。また奥さんが用事で出かけてしまう時などでも、夫に少し子供を見ていてもらえることもできる。夫婦協力して子育てに取り組める。子供にとってオモテでは社会の勉強ができ、奥では家族の安らぎを感じられる。家族という一つの社会をこの町家は担っている。
 「奥の庭は小さな丘のある庭にしようと思っています。木や花ももっと植えて」と奥さんは子供を抱きながら話してくれた。家族でこの家と住み、少しずつ子供が成長すると共に、庭の木や花も育ち、木の柱や、土の壁、畳にも少しずつ傷がついたり、また古びてゆく。この愛情に満ちた家族に住んでもらえて、この町家もまたこの家族を愛し「内田家の家」として生まれ変わった。これから、この町家と共に内田家のライフストーリーが始まる。
2010.5.1