町家に住むということ ─左京区・S邸内田康博(再生研究会幹事)
左京区聖護院、東大路から入る路地奥に小さな尼寺の門とその尼寺の貸町家が軒を接して隣り合っている。平屋で2列2室型のこの町家に、ご近所の不動産屋さんを介して出会い作事組による改修を経てお住まいのSさん夫妻を、お訪ねした。
そしてその「きっかけ」であるが、まず、和装生活に興味を持ちながら第一歩を踏み出せずにいたご主人には、イラク反戦デモに和装で加わる青年との出会いがあった。かつての日本の生活様式の復権(「七和三洋」*1)を熱く語る青年に導かれて、服装だけではなく生活様式全体を見直すようになった。また奥さんは、和装のご主人と行動を共にするうちに、「一人でも多くの方に着物の良さを知ってもらいたい」とご自宅で着付けを教えておられる女性*2との出会いを経て、和服を着られるようになったとのことである。 高度経済成長以前の日本の生活文化や現代の環境問題に対して元より関心があったところ、「かつての和の生活」を提唱する人たちとの出会いによって、地方風土に根ざし環境負荷も小さい町家生活への想いも高まっていった。この家に越す以前は近くのマンションに住まわれていたが、和服で生活するようになるとドアノブに袖が引っかかるなど、衣食住は不可分であると体感的に理解するなかで、理想の住居形態として町家を探されることとなった。奥さんの勤務先に、京町家を購入された方が偶然居られた。その方よりお借りした町家関連書籍の中に『町家再生の技と知恵』と『町家再生の創意と工夫』(共に学芸出版社刊)があった。これらに大変な共感を得たのが、ご夫婦と作事組との「出会い」であったという。
エアコンはもちろん、床暖房も入っていない。昔ながらの日本家屋での取材であったが、すこし重ね着をするだけでストーブも無く過ごしてしまった。ガラス障子からの冷気はあっても、畳と土壁と杉板の天井に囲まれた空間の心地よさとあたたかさにつつまれていた。慣れもあり、朝は暖房無し、夜は火鉢が主役とのこと。「地球の温暖化が進んでいるので、冬でも寒くないんですよ」と本気ともつかない冗談をいって笑っていた。 ただ、それほど苦にはされていないようだったが、土間に落としたハシリニワはやはり足元が寒く、水仕事をする奥さんには厚手の靴下が欠かせない。無理のないように、足元の採暖の工夫が必要と思われた。夏が来れば、マンションでもそうしておられたように障子を開け放して団扇と扇風機ですごし、夜は蚊帳を吊って寝るそうである。春の暖かさや秋の涼しさも、このような家でこそ楽しめるだろう。 町家の改修と入居に合わせて京町家友の会にも入会され、会主催の「京町家歳時記」に参加することを楽しみにしておられた。これからこの町家に住むなかで、四季折々に迎える京の歳時を学んで行かれることと思う。 *1 和楽社中 http://www.waraku-shachu.com/theory/index.html *2 きものさんぽみち http://www.kimonosanpo.net/ 2007.3.1 |