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京町家情報センター


(11) 紙のスクリーン
 楮(こうぞ)や三椏(みつまた)で、手間をかけて作られる和紙には不思議な性質がある。閉じていながら透過するし、光を通しながら遮断する。和紙は空気を多く含んでいるので、紙1枚あるだけで結構な断熱作用がある。
また音圧レベルも下げてくれるし、特に高い周波数の音をよく減衰させてくれる。さらに湿度の調節にも相当な効果がある。表面で反射する光で見るときの和紙と、透過する光で見るときとでは、全く違った印象があり、これも和紙の魅力となっている。
 十数年前、私の仕事場の「住まいの工房」の空間を仕切るのに、和紙デザイナー堀木エリ子さんの大きな和紙(2.1mメートル×2.7メートル)を吊るした。予想通り、空間が一変した。表面で反射する光で見るときの存在感と、後ろからの透過した光で見るときの圧倒的な違いに、事務所に来た人は驚き、小さな空間での変化を楽しんでもらっていた。
 しかし、しかしである。わが住まいの工房は、なぜかお酒を飲む機会が多い(誰のせい?)。中にはここはお酒を飲む場所だ、と心得違いをしているフトドキものもいる。
 困るのは、酒を飲む前は紙が吊るされている、と分かっているのに、アルコールが入ると吊るされている紙が「壁」に見えてくる連中が後をたたないことだ。もたれかかるのである。当然紙は逃げる、人は転ぶ、紙、破れる、である。何度も何度も破れたのを繕って、繕って使っていたが、限界になり、2代目に換えた。
 しかし事態はかわらず2代目の紙のスクリーンも同じ運命をたどった。それでも紙を吊るしたくて、今度は少し考えて建築家吉村順三さん風の升目の大きい障子にして吊るし、目の高さに茨木のり子さんの「倚(よ)りかからず」という詩を書いてやった。
 出来合いの思想などには倚りかからず、自分の足で立て!というとてもいい詩なのだが、これも失敗だった。「ふーん」といって気がつく人もいるのだが、酔っ払った人間は絶対にこれに気がつかない!でも茨木のり子さんの詩の力か、吊るしたボクの念力か、今のところ破られずに吊るされている。

(2011.8.14京都新聞掲載)