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京町家情報センター


(9) 風の運ぶもの
 ご存知でしたか。風は四方八方の方(ほう)神(しん)が、その神意を目に伝えるために鳳を羽ばたかせたことで、吹いていることを。
 春には東の方神が、暖かい風とともに桜や菜の花を開花させ(このごろは意地悪に杉やヒノキの花粉も運んでくる)、夏には南の方神がカッと照りつける太陽とともに、ちょっと湿った暑い風を送り、秋には西の方神が澄んだ高い空とともに実りの季節をもたらし、冬には北の方神が冷たい空気と雪を運んでくる。
 神様の声をよく聴いて生活する家作りをするためには、風通しをよくしておかなくてはいけない。
 もっとも、冬は入ってきてほしくないので閉めるのだけれど、それでもどこからともなく隙間風で入ってくる。風に乗ってやってくるのは暖かい、寒いだけではなく、花の香りや、雨の降り始めの土の湿ったにおい、鳥の声や町の音、それに人のうわさなどさまざまなものがある。
 また、風を通すことによって、生活に伴って一時的に濃くなったCO2(二酸化炭素)や何かを、大気中と同じバランスに戻してくれるという大切な一面もある。
 家の中で風を通すことを考えるときは、風の入り口と出口の二つを常に考えなくてはならない。水平方向だけでは風の通り道ができない場合は共通の吹き抜けを設けて、上下で風を通す。
 こうして作った家のいいところは、家に居ながら季節を感じられる(神様の声がよく聴ける)ところ、他の部屋の(または階下の)気配を感じられるところ。よくないところは、下手をすると音が漏れる(空気の出口と入り口の関係を間違えると、こうなる)こと。
 設計する場合は、目に見えない風の動きを読んで、慎重に窓や隙間を作る。
 最近は外部環境が悪くなったので、機密性を高めて暑すぎる空気やスギ花粉、ダイオキシンのようなものをシャットアウトしよう、という家が多いが、これらの人間に害をもたらすようなものも、風の運んでくるものなので、これは神からの人間に対する警告と受け止めるべきで、本当は生活態度や社会の仕組みそのものを考え直さないといけない。
 それもせずに風をシャットアウトする家つくりは、神の意図されることを拒否する、人間の思い上がりの家になる。

(2011.7.31京都新聞掲載)