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京町家情報センター


(6) 夏を涼しく
 今年の夏は、節電をせよと、国を挙げて叫ばれている。いままで電気は便利だからどんどん使え、どんどん使えといわれて、そのような仕様で住宅も作られてきたもんだから、そういう家に住む人たちにとっては「我慢」の節電、「我慢」の夏である。
 一方、私の住んでいる戦前の木造住宅は、電気器具に頼らない生活の時代からある住宅なので、いつものように、障子をすだれに変えて、緑濃い庭からくる涼風を室内に呼び込み、打ち水をして通り庭の土間付近の涼しい空気を揺り動かして、暑い夏をやり過ごす。 今年の夏は他の家からでるエアコン室外機からの熱風が少なくなる分、もうけもの、ぐらいの感じしかない。我慢でもなんでもなく、普通の夏の過ごし方である。
 障子からすだれや葦戸(よしと)に替えると、風は通るが、光は絞り込まれ、室内は少し暗くなる。明るい庭の木や草の葉が揺れたり、蚊取り線香の煙の揺らぐのを見て、風を感じる。庭のつくばいからは(ウチにはないが)かすかな水音が聞こえ、時折ふっと吹く涼風が汗ばんだ肌に気持ちがいい。そうして五感で涼しさを演出し、京都の人たちは暑い夏をやり過ごしてきた。
 とはいうものの、それだけでは進歩がない。評価は後の時代の人がするものだが、何か工夫ができないものか、と考えるのが我々技術系統の人間の悪いクセ。断熱材として、分厚くても効果のあるわらのブロックにしてみたり、床下の冷たい空気を室内に上げようとしたり。
 現在は、井戸水を使って、涼しくできないか、検討中。井戸水は年中15度ぐらいの温度なので、これを部屋の天井にパイプで巡らし、アルミか何かの羽をつけて、輻射冷房の効果を狙っている。
 井戸水が出ることが条件だが、幸い京都はまだまだ井戸の出るところがある。
 ポンプで循環させるのに電気を使うところと、アルミ材(作るのにすごいエネルギーが必要)を使うところが、ちょっと後ろめたいが、電気をがんがん使って空気そのものを冷やしてしまおう、という効率の悪いやり方よりは、ずっとひそやかな、控えめな、それでいて効果的な方法ではないかと思っている。

(2011.7.10京都新聞掲載)