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京町家情報センター


(1) 1.5メートルの不思議
 以前、仲間と「茶室研究会」なるアヤシゲな会を作って、思いついたように茶室を訪ね歩いたことがあった。その時に、何か話をせよと言われて、話したのがこのテーマ。 人は座ってお尻を中心に、体を倒して手が届くのが1.5メートル。この半径1.5メートルを人間は無意識のうちにテリトリーとしている。茶室の基本の大きさは四畳半で、京間の畳(6尺3寸×3尺1寸5分)が基本なので、一辺は9尺4寸5分=約3メートルの四角になる。
 つまり中心に人がいると、半径1.5メートルの円は部屋にすっぽり納まる大きさで、ここに他の人が入ると、テリトリー内に侵入されたことになる。そこであいさつをして関係を良好にしておかないと、どうにも落ち着かない。
 お茶を点てる動作では、畳1枚を間においてお点前をする人とお客の距離は大変微妙に変化する。お茶を点てている間は、互いの座っている畳の縁あたりに1.5メートルの境界が来るが、お茶をいただく動作では、時として1.5メートルの中に互いに入ってしまう。
 また、あいさつの時、膝前に扇子をおいて結界とするが、この時はここがテリトリーの境界となる。お茶の作法は、こうして互いのテリトリーに入ったり出たりしながら、一座建立を目指す。
 この説でいくと、四畳半では、2人がどこにいても互いの1.5メートルの円が重なるが、6畳になると、長手方向(約4メートル)の端と端に座れば、互いの円は重ならない。この時は、会釈程度で、それ以上深く話すことなくいられる。そういわれればそんな気もする(でしょう)。
 これを食卓に応用すると、1.5メートル以内の寸法のテーブルでは、横の人とも前の人とも同じように話をするが、前と1.5メートル以上離れると、前の人は話をせず、横の人と話すことになる。
 私の小さな事務所には、似つかわしくない大きな打ち合わせテーブルが置いてある。これが1.3メートル×1.3メートルで中心に炉が切ってある(これもミソなのだが)。どの席についても、相手と1.5メートルまでになる。この席にアルコールが入ると、うるさいこと、うるさいこと。不思議な距離、1.5メートル.

(2011.6.5京都新聞掲載)