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京町家情報センター
現況報告

報 告◎京町家不動産証券化実現に向けて
西村孝平(京町家情報センター会員/株式会社八清)


祇園小松町の証券化物件
京町家の不動産証券化については、有限責任中間法人京都不動産投資顧問業協会[KIAS]が2003年の6月26日に京都で最初となる不動産証券化第1号の記者発表をし、第2号の証券化は「京町家」でやりたいと言ってから、2年経ちました。
  京町家不動産証券化の説明は、京町家通信NO.38で、京町家再生研究会の吉井英雄さんがコラムでご説明しておられるので、ここでは省略させて頂きますが、実現に2年間もかかった事が、町家の不動産証券化の難しさを物語っています。
  町家の不動産証券化とは、町家を賃貸物件としての家賃を果実として、証券購入者に対し毎年配当をする事で成り立ちますが、国土交通省の「地方都市再生に向けた不動産証券化活用の事業調査」の呼びかけに、唯一京都市だけが応えたことでもわかるように、東京を中心とした巨大マーケットの市場なら出来る証券化も、地方では証券規模が小さすぎてビジネスにはならないのです。また、国土交通省が実施した2004年3月の「京町家をモデルとしたシミュレーション」の調査結果も、「一般的な証券化の枠組みを前提とした場合、組入物件数が少ない段階では、証券化コストが高くなり、プロジェクトIRR(内部収益率)は非常に低くなり、証券化は不可能である。しかし、京町家の歴史的な意義や住民の地域貢献意欲などをうまく生かして、再生・保全の為の篤志的資金を調達することができれば、証券化を実現することは可能」と結んでいます。要するに、証券化は難しいが、証券化を具体化するには、低い配当でも構わないとする証券購入者がいる事と、それをアレンジメントするアレンジャーが、利益を度外視すれば可能である、という事です。
  我々を含めた5団体(京都市、財団法人京都市景観・まちづくりセンター、京町家再生研究会、京町家情報センター、京都不動産投資顧問業協会[KIAS])で結成した「京町家不動産証券化実施に向けての研究会」は、国土交通省の「可能である」と言う調査結果を信じ、具体的な物件仕入れを試みたのですが、家賃をベースに売買価格を決めるDCF法による鑑定のため住居系は利回りが低く、また建物の改修費を貸主側で負担しなければならないためコストが合わない物件が多く、中京区、東山区の人気地区の町家は、東京を中心とした不動産投資業者のあおりを受けて地価が高騰し、家賃をベースにした仕入れが出来なくなるなど、いずれも「帯に短し襷に長し」の状態が続きました。
  昨年4月の研究会発足の当初は、秋口に仕入れを完了し、今年の春には証券を発行する予定でしたが、秋に仕入れることができたのは、私の会社が仕入れた祇園小松町の1棟のみ。それも証券発行予定の1億円の1/5、2000万円足らずの物件です。今年の2月になっても他に仕入れのメドが立たず、研究会の毎月の会合のネタもなく、メンバーからは「証券化はやっぱり無理では」と言う雰囲気が漏れてきました。早く仕入れたいと焦る中、3月になって伏見区納屋町の町家の情報が情報センターの会員から入り、調査の結果、テナントが決まれば証券化は可能ということで、これで6000万円になりました。また、研究会の発足以来1年が経つので、定例会を5月で中止しようとした矢先、情報センターの会員から私のところに中京区新町六角の物件について情報が入り、メンバーで検討したところ家賃20万円なら可能ということで、6月上旬に仕入れ契約が完了しました。結局3物件とも商業系の物件となりましたが、これで1億円の証券が発行できる事となりそうです。
  早速KIASは、証券の受け入れ先である特定目的会社(TMK)を作成、名前を「京町家証券化特定目的会社」としました。今回、1億円の証券発行のうち4000万は地元金融機関から特定融資を仰ぎ、KIASのメンバーが劣後出資証券1000万円を購入、残り5000万円は優先出資証券として販売する予定であります。配当は2〜4%前後となり、期待利回りは魅力の乏しい証券ですが、京町家の保全・再生を不動産証券化で行うという今回の試みは、非常に意義深いものであるとともに、難しい事業であることを実感しています。今後はこの証券発行事業の推進と証券販売について皆様にご協力をお願いして、報告を終了致します。



事務局覚え書き
 「安心・安全」を自分の住む家に求めるのは、いつの世も同じ変わらぬ思いでしょうが、最近の安全に対する考え方と、町家のそれとではずいぶん違いがあるように思われます。最近はたとえば風呂場との段差をなくしてつまずかないようにして「安全」といっていますし、直接炎の出ない熱源を使うことで、火をコントロールしやすくし、周りは熱を伝えにくい、燃えないもので覆って「安全」としています。以前の建物では、水を使うところは一段低くして「水返し」をつけることで建物の基礎部分が傷まないようにし、使う人は段差に注意して使っていました。火にしても場所を限定して常に用心して使ってました。使うものの意識があって初めて安全に使えたわけです。最近の、ともすれば「横着」を助長するような安全よりは、気をつけないといけない安全のほうが大切なことが多いような気がするのですが……。

 オーナー登録数 54/ユーザー登録数 延472/物件登録数 延503/契約件数 41  
(05年6月15日)
過去の報告