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京町家情報センター
京町家に移り住んで──奥田邸


写真 岡田大次郎
 前回の「京町家に移り住んで」でお話をお聞きした生川邸。その表の京町家にお住いの奥田さんにお話をお聞きしました。実は、生川邸の改修の設計者の一人として関わられていた奥田さん。生川さんとの出会いで意気投合、タイミングも良く、話が進み、今回の京町家にお住いになられたようです。
聞き手:京町家情報センター 城 幸央


――京町家に住むことになったいきさつ
 路地奥の生川邸の改修の設計者として関わっていた最中、生川邸の表にある京町家も改修する縁があり、その表屋造りの京町家の意匠・構造改修の設計も任せて頂くこととなりました。プランニングの段階では、1階はフリースペース、2階は京町家の調査に関する事務所にしようという内容で設計を行っていました。私自身は京町家に住みたいという願望が強い訳ではなく、一度は町家住まいを体験しても良いかな、と思う程度でした。そんな折、私が結婚し、妻が染織作家としてアトリエが必要だという私たち夫婦を知った生川さんが『奥田さん、住みませんか?』と、声をかけて頂き、まさか自分が改修した京町家に住むことになるとは考えてもいませんでした。生川さんの紳士的でパワフルな人柄にも惹かれ、厚かましくもこの町家に住まわせていただく事になりました。

――意匠・構造改修にも関わった
 具体的になった改修の条件は、1階は全面土間としフリースペースとして活用し、2階に住空間を集約させることでした。看板建築であった町家らしさの残っていない現状のスナックは、本来あったであろう庭の部分にも増築がほどこされ、暗く陰気な雰囲気でした。改修計画として、表のファサードは隣家の意匠と共通したものとし、出格子も復元させ、京町家の佇まいを取り戻し、庭からの光が入るように以前の増築部を減築しました。構造的にも元々通り庭だった辺りに袖壁を設け、壁を共有している隣家も含んだ構造計画を行いました。また隣家との共有の壁には、防音対策も施しました。
 生川邸と同じく「古い空間と現代生活の融合」というテーマもあり、現代の生活には不可欠な電気や衛生の配管インフラを真壁造りの空間に違和感なく収める工夫をすることで、京町家の趣ある空間を損ねない努力をしました。照明計画に関しても同様に、建物の構造部に穴を開けたりすることは無いよう、梁などを避けて配置しています。

――nitera shinka (二テラシンカ)
 1階の奥の部分は、染織作家をしている妻の作業スペースとして使っています。表の部分は、nitera shinnka(←最寄りの住所、二条寺町新烏丸より)と名付け、「お気にりの本を見つけたり、つくる手仕事にふれたり、毎日をちょっと楽しくする空間」として、ワークショップなどを開いています。この活動では人が人を呼び、たくさんの繋がりができ、現在は大喜書店さんが行うBOOKBARや、寄せ植え教室、デッサン教室などを行っています。今後も人の繋がりから面白いイベントや関わりを続けていくスペースになればと思っています。

――住んでみて
 奥に住むオーナーの生川さん、お隣の井上さんとも同年代ということもあり、お互いに良い距離間でお付き合いさせて頂いています。街中であるにも関わらず、良い意味でお互いの息遣いを感じ、安心して暮らせております。庭を介しての自然や、家の木が軋む音や香り、土壁に落ちる光と影など、五感で町家の空間を感じています。
 「生きている町家」と一緒に暮らしている感覚があり、町家の細かいところまで気遣うようになりました。丁寧に住む意識や気持ちが芽生えたように思います。この町家は季節や時間を感じて大切に生きるという気持ちを抱かせてくれるように思います。
 この町家は今後色々な人が関わっていく町家であると思います。私たちは、この家が『まだ居ていいよ』と言っていてくれるまで、住まわせて頂いている、という気持ちでこの家と一緒に今を過ごさせていただいています。

2014.11.1