• 京町家net ホーム
  • サイトマップ
  • アクセス・お問い合わせ
京町家情報センター
京町家に移り住んで──生川邸


写真 岡田大次郎
 以前の「京町家に移り住んで」でご紹介させていただいた井上邸のご近所になるところにお住いの生川さん。京町家保全再生に関するお仕事もされていたこともあり、京町家を大切に受け継ぎ、じっくりと考えて改修もされています。構想に1年、改修工事に1年、6か月の週末住宅、実際に住まれて1年。お話をお伺いしてきました。
聞き手:京町家情報センター 城 幸央


――京町家に住むことになったいきさつをお教え下さい
 3年前に京町家に住もうと考え、探し始めました。当初は、物件を探すのに2年ほどかかると考えて探し始めましたが、京町家情報センターに相談し、最初に紹介をされた2つの物件のうちの1軒で決めました。初めから、すまい目的であったため、表屋造の商家型京町家ではなくて、路地奥の静かな物件を探しており、決めたこの物件も専用通路を入った奥まったものでした。
 最初に見た時は、約30年もの間空き家だったせいか荷物がたくさん詰まっていて埃・泥・カビだらけでした。一緒に見た母と妻は、このような古い家・ゴミ屋敷に住むことをイメージできず反対をしていました。そこで、購入する前に不動産業者にお願いをして建物の構造・造りを町家大工の棟梁に見立てていただきました。「元々、お客様を招く目的としても建てられた建物のようで、木材も良いものが使われており構造はしっかりしていて、建物の傾きもほぼないようなもの。縁の庇も丸太が使ってあったり、階段手摺や床の細工も丁寧なもので、大切に使われてきた良い建物だ。」、梁の埃を指で拭きとり「こんな埃、ほらとれるやろ。きれいな柾目が見えるか。」という棟梁のシンプルで真っ直ぐな説明に、最初は反対だった母と妻の反応も変わり、この物件に決めることになりました。

――改装についてどのような点をポイントにされましたか
 購入後、構想に1年、改修工事に1年かけました。この建物を購入し所有はしているが、「建物の長い歴史のうえでは借りている」という感覚を大切にし、「この建物にとって今やるべき改修・今できる改修は今やっておく」ということをしました。また、「伝統と今の価値観の融合」ということも考え、残すべきところは残し、今の生活に必要な部分は使いやすく改修することをしました。
 基本的には、「元の状態に戻す」ということを考え、増築されていた部分は今回減築し元々の建物部分を改修しています。もちろん、水回り部分は傷みが激しかったこともあり、現代の使いやすいものを入れました。また、通り庭で火袋部分だったところも屋根が上げられ床がはられていましたが、その部分は吹き抜けに戻し、元々通り庭だった場所なので庭との繋がりも考え、下足ではありませんが一段座敷より下げたタイル貼りの土間とするなど、キッチンダイニングスペースとして今の価値観を取り入れ、モダンに仕上げています。
 耐震改修としても、要所要所には耐力壁を増設し、また奥の様子が見え光が入る木格子耐力壁を使い、耐震的にも補強をしました。

――住んでみていかがでしょう
 季節を感じながら暮らしています。夏には建具替えもして、この家に受け継がれていた葦戸を再利用したり、座敷簾も新たに作り、夏模様を楽しんでいます。ひな祭りなど、季節ごとの行事も飾り行うようになりました。
 今年は来客がある時に冷房を少しつけたぐらいで、冷暖房がないとダメだった妻ですが今のところ問題なく快適に過ごしています。
 8歳になる子供も、もっと障子に穴を開けたりいたずらが絶えないと思っていましたが、改修の時点から掃除や片付けなど一緒に参加していたからか、家を大切に使ってくれているように感じます。庭の草取りなどの作業もよく手伝ってくれ、町家の外との繋がりも感じるところです。

――ご近所とのつきあいはいかがですか
 先に、表に住まれている井上夫妻がおられたこともありスムーズに町内の方とは関われました。井上さんのお宅も同様、やはり町家を町家として保全再生し使っていることに良い印象を持っていただき、町内にも喜んでいただいているようです。先日の楽町楽家2014のイベントとして行ったトークライブの際にもご近所の方にもお声掛けし、来ていただき家の中も見ていただきました。このように、少しずつ町内の輪に入らせていただいております。

2014.9.1