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京町家情報センター
京町家に移り住んで──うさぎ塾

 日本の歴史は幾多の戦い(争い)の中で形作られてきました。古来、相手の刃から身を護る道具として発展してきた甲冑を、紙ベースで制作することにより歴史のダイナミズムといにしえ人の泡沫を身近に感じてもらおうと、京都を拠点として各地で制作教室を展開されている「うさぎ塾」主宰の夘月様ご夫妻にお話を伺いました。
〈林 茂(平和土地)〉

――京都に来られるきっかけはなんだったのでしょうか?
奥様 仕事の関係で職人さん方が京都に多かったこと、以前から京都が好きだったこと、人生の師とする山口安次郎先生(故人)とのご縁から平成16年暮れに関東から入洛しました。私の祖祖母が京都出身だった(後で知った)ことにも運命的なもの感じています。京都への転居は、普段余り動かない主人が『とにかく行こう、行かないと始まらない』って。これが始まりでした。

――6年経った京都の印象はいかがですか?
奥様 洛中の雰囲気は格別。歴史とか文化が凝縮されて、生活に溶け込んでいる印象を持って暮らしています。季節毎の行事も多いし、主人も今年地蔵盆で町内デビューさせて頂きました。
ご主人 今年の地蔵盆で会計を任されました。一日で済むはずのことを二日かけてする。それぞれの通り毎に町衆のさりげない気概があって、住まれる方々が伝統を守っていこうとされているし、そんな中で暮らしていることの意味を生活の中で発見・実感してるんだなあ、と感じます。やっと町内でデビューさせてもらいました。認めてもらったんだなあ、って感じましたよ。やっと一人前ですか!(まんざらでもなさそうに照れておられました。)
奥様 京都で町家に住むということは、いわば『土地に住む』という感覚。慣れない状態での始まりでしたが、山口先生のお嬢様、西垣様始め、大切にしてくださる回りの皆さんのご縁をかみ締めています。京都ことばの言い回しも好きです。表現が柔らかいし、私には合ってるようです。
ご主人 私は白黒はっきり言う性質で、仕事仲間の職人さんたちとは、最初のころ、はっきり物言ってぶつかることもあり、当初は面食らいました。慣れてきた今は表現の仕方を工夫する、それが文化だと理解でき、知らず知らずに順応できてきています。一旦、胸襟を開くと受入れてくださって、以来、申し訳ないくらい親切に接してもらえることにも驚きました。きちっとした作業をすればきちっとした答えが返ってくる、職能仲間との関係を構築できたかな、というのも京都での良い印象です。

松田邸
うさぎ塾
――念願の町家の住み心地は?
ご主人
 仕事柄各地を回りますが、良いホテルに泊まっても「早く帰りたい!」と思う程、この家が心地良くて! 家の中の風の抜け具合とか2階と1階の室温の違いも季節によって違うし、町家特有の材質を感じます。町家は家の中に流れる季節の空気があって、家内は最近風邪をひかなくなった。おそらく自然と共存する暮らし方がそうさせていると思います。町家は部分ごとでとらえると、台所は土間で、マンションに比べるといちいち降りたりするのが面倒に思われたものが、実際に住んで見ると、水を流せて便利であるとか、火袋や段差のある空間が開放感を与えてくれていることに気が付いたり、冬は暖房していても結露が無い、とか、格子から漏れる灯りに柔らかさとか安らぎを覚える、といった生活から受け取れるメッセージを感じ始めています。もう一つ、光の加減(蛍光灯が少ない)が京都はいい。
奥様 町家との出会いは『お見合い』みたいなもので、この家に出会って婿に来た、嫁に来た、という感じです。

――故郷へ、の思いはいかがでしょう?
ご主人 そこははっきりしています。ずっと京都で暮らしたい、という思いは夫婦共通の思いです。出張してても京都へ帰りたいという思いが募ります。京都へ来た頃は関東へ帰ろうか!って冗談で言っていましたが、最近は早く京都へ戻ろうって自然に思います。

――11月23日には恒例の鎧着初式を上賀茂神社様のご好意で行わせていただきます。今年で4年目になります。全国から教室の皆さん方が作品を身に纏って参加されますので、よかったらご覧になってください、と話されるご夫妻は、もうすっかり京町家の住人として地域にも溶け込んで生活されている様子でした。
2010.11.1