こちらの町家にテナントとして入居し、事務所を構えておられる田中久喜税理士事務所の田中様とスタッフの川勝様にお話を伺いました。 園田純子(京町家情報センター、且野コーポレーション)
―仕事場である事務所として、町家を選択された経緯を教えてください。 以前はオフィスビルに入居していたのですが、便利な反面、暖かみがないというか、落ち着いて話ができるスペースが欲しいという希望がありました。お客様とのやり取りの中で、単に書類を作成して終わりではなくて、お客様とじっくり経営について話をする時間を取りたいと思い、当初の希望としては、四条から御池までの間で、京町家あるいは一軒家を探していました。 住居を兼ねて町家で事務所を構えている方はおられると思いますが、テナントとして京町家を借りているのは、ウチくらいかと思います。
やはり落ち着いて物事を考えられるという点が、大きな違いです。また、事務所スペースとして使っているのは、町家全体の1/3くらいで、他は応接だったり、休憩に使ったりしているのですが、そのことがお客様にとって余裕を感じて頂けるようです。 気になる点は、寒いことと、網戸がないので蚊が多いことですね。あと、コンピューターを置いているので、コンセントの量が圧倒的に足りなくて、入居当初困りました。 ―お客様の反応はいかがですか? まず、事務所に来られたお客様は非常に驚かれます。税理士事務所=オフィスビルに入っているというように堅いイメージだと思うのですけれども、来られた時に建物に目を向けられて、「珍しいですね」「すごいですね」とおっしゃって頂けます。暖簾(のれん)のかかっている入口に気が付かれずに通りすぎて、場所が判らないと、電話をかけて来られる方も多いです。 税理士事務所というと業種的に少し敷居が高いと思うのですが、仕事とは別の所で、お客様と打ち解けられるところがメリットではあります。 お客様をお通しする場所は、1階の手前の応接と2階なのですが、2階は和室にソファを置いて、床の間に掛け軸や壺を飾っています。 夏には蚊取り線香やウチワが置いてあったりするのをご覧になって、「失われた日本」がここにあるということで、お客様には面白く感じて頂けるようです。 ―ご近所とのおつきあいはいかがでしょうか? 町内会の活動や懇親会などにも参加しています。去年は会計を担当していました。夜回りなどの活動は事務所が閉まっているので参加できませんが、できる限り参加するようにしています。 ―オフィスビルとは違って、建物のメンテナンスをスタッフで行うため、朝は必ず掃除から始まるそうです。誰かが共用部を掃除してくれるオフィスビルと比べて、トイレを掃除したり、床を掃いたりといった作業は、ビジネスの観点からは合理的ではないかもしれませんが、丁寧なお話ぶりをお聞きしていると、建物を大事にしたり、空間を大事にする気持ちが、仕事の上でもいい影響を与えてくれているのではないかと感じました。 2010.5.1
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