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京町家情報センター
京町家に移り住んで──高橋邸

  二条城の南のあたり、広い道から少し入った場所にあるため、道路の騒音からは遠く、静かな落ち着いた雰囲気の長屋建ての町家があります。ここへ移り住んで現在は住居兼文筆業の仕事場として使っていただいている高橋さんに、住んでみての感想をお聞きしました。
苗村豊史(京町家情報センター:みのり住建)


――なぜ、京町家に住もうと思われたのですか?
 元々、京都出身なのですが、以前はマンション暮らしをしておりまして、町家に対して特別な憧れは持っておりませんでした。その頃の印象としてはよく言われるように、暗いし、暑いし、寒いし、何で皆さんが町家に住むのかなというようなものでした。ただ、仕事柄(雑誌などのライター)、京町家にまつわる連載記事(雑誌Hanako WEST 「高橋マキのわこもの暦」:この記事の和小物を撮影しているのは、現在の町家)などを書いているため、自ら町家に住んでみて、その良さも不便なところも身をもって知ろうと思ったのがきっかけで、1年余り前にここに移り住みました。私は「実験的町家暮らし」と呼んでいます。

――実際にお住まいになってみて気づかれたことは?
 まず困ったのが掃除の仕方がわからないことでした。マンションに住んでいた時は、掃除といえば掃除機をゴーと言わせていれば、はいおしまい、というところがあったのですが、町家はそうはいきません。箒を買ってきて、雑巾を用意して、たわしも買っての大騒動です。使い方を店の人に教えてもらいながら昔ながらの道具を使っていると、何とその道具たちのよくできていること……。
 また、箒などでも、買うときは「一生ものですから」といった説明を受けての買い物なので、自然と「これ、本当に必要? 買うとしたらどのレベルのもの?」と慎重にならざるを得ません。
 それから、町家は小さいといえども1軒の家ですし、庭もあります。マンションに比べてスペースも広く、掃除する面積も広くなります。庭の手入れも気になるところです。自然が近くにある分、小さな虫たちとも共存することが必要で、これも慣れるまでがちょっと大変でした。梅雨の時期に畳にカビが生えて困ったこともありました。マンションと違って2階がありますので(町家ではごく普通のことで言うのも恥ずかしいのですが)階段の上り下りが必要です。一度階段から落ちたことがあります(幸い怪我はありませんでした)。
 聞いてはいたのですが、実際住んでみてわかったのは、エアコンなしで十分快適に過ごせるということでした。暑い京都の夏ですが、風が通りぬけて涼しく、本当に暑い時間帯を「短いお昼寝」でやり過ごす知恵を身につけると、なんていうことなしに快適に過ごせます。友人たちに夏にエアコンなしで生活しているというと、「信じられない!」と驚かれますが、やってみると大丈夫なものです。外の音がなんとなく聞こえるというのもいいBGMになってます。2階の表の間が仕事場になっているのですが、近所の子供の声や町の生活の音が聞こえて、地域との結びつきや安心感があります。昨年の地蔵盆は、子供たちの喧騒をBGMに仕事に追われてましたが、今年は地蔵盆にも参加したいなあ、と思っています。

――ご近所や家主さんとのお付合いはいかがですか?
 すぐ近くに家主さんがお住まいの為、お家賃はいつも手渡しです。その折、奥様と色々な話をさせて頂くのが楽しみです。お隣の方とも仲良くさせて頂いております。皆さんから、いろいろな町家暮らしの情報やアイデアをいただけるのもありがたいです。
 母や祖母、街の先輩方が普通にされていた暮らしですが、昔の人の知恵はすごいなと思う事がよくあります。結局、家に対してこまめに手を掛けることができるかどうかが、町家暮らしを楽しめるか否かの分かれ目だと思います。また、自分が町家に住んでみて、他の町家使用者のご苦労(改修や維持管理)もよく分かりました。

――この9月には初の著書『ミソジの京都』(光村推古書院刊)も出されるとのこと。この分だと実験的町家暮らしは、必ずや実り多いものになることでしょう。

2009.9.1