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京町家情報センター
京町家に移り住んで──S邸

 北野天満宮(上京区)に程近く、まだまだ町家が立ち並ぶ地域にあるこの京町家(仕舞屋)は、出格子の外観、壁はすべて真壁、土間のままの通り庭、人研ぎ流し、戸外のトイレは小便器と和式の大便器が別にある、まさに手付かずのレアものといった町家です。ここに昨秋、引っ越された新婚のSさん夫妻から話をお訊きしました。

井上信行(情報センター幹事)

 
――町家に住もうと思われたきっかけはなんだったんですか?
 
S邸
S邸
以前から町家に住むことは憧れでした。京都の伝統文化や人と人とのつながりをダイレクトに体験できるのは京町家ではないかと思っていました。それに、不便さも含めて四季の移ろいを五感で感じられるのではなかろうかと。
 そうは思ったものの、京町家は京都に昔から住んでいる年配の方でないと実際には探したり住んだりできないと思っていました。しかし、たまたま、二年前に行われた「楽町楽家」のイベントにいろいろ参加してみて考えが変わりました。私たちと同世代の若い人たちでも、地域に溶け込んで町家暮らしをしている方がいらっしゃることがよくわかり、それで、自分たちも町家を探して住もうと決めたわけです。

――実際、町家に住んでみていかがですか?
 友人や同世代の人たちからは、「町家に住めていいね」と憧れの目でみられます。一方で祖母をはじめ年配の方たちには、「なんでこんな不便な家に住むの?」と不思議がられます。この点、私としては意外でした。年配の方がもともと暮らしてこられた家なのに。
 それと、以前、マンションに住んでいたときは、使っていた家具を始め家財道具がただ単に道具としての実用面しか目にはいらなかったんです。ところが、町家に引っ越してみて、この家にあう家具などを選んで置いて暮らしていると愛着もわき、これから何十年も大切に使っていきたいと思うようになりました。これも町家の力、魅力でしょうか。やっぱり京町家は最高ですね。

――ほかにご近所付き合いとか、何か感じられたことがありますか?

 ある日、日も落ちた時分に、家でうたたねをしていたんですが、突然、レスキュー隊の方が家に来られました。話を聞くと、うちの隣家のMさん宅に電灯は点いているが、鍵がかかっており、何度呼んでも応答がないとご近所の方が心配されて警察・消防へ通報されたとのこと。Mさんはかなりのご高齢で、お一人暮らし。玄関からだけでは様子がわからないので、隣家であるうちの裏から庭越しに様子を見たいとのことでした。それで隣家を庭越しに覗かれたのですが、カーテンも閉まっており中の様子はやっぱりわからない。「何があったんだ」と、家の前はご近所の人ですごい人だかりで、もはや玄関の鍵を壊して家の中に入ってみるしかないといった感じでした。そのとき、通報された方が、ふと、このMさんが親しくしている方が近所におられることを思い出されました。
 念のためそのお宅を訪ねてみると、隣家のMさん、何のことはない、そこでお茶を飲んでおられました。帰ってこられたMさんを囲んで近所の方が、「よかったねぇ」と口々に言われてました。騒ぎを知らないMさんは「なんのこちゃ?」という顔。なんだか、「サザエさん」に出てくるような話ですが、地域の方たちがお互いに気遣いながら暮らしていらしゃるんだなぁ、ということがよく解りました。

――こういった若い世代が地域のコミュニティのことをよく理解し、自らすすんで一員になろうとしてくださるのは誠にありがたいことです。こういう方にもっとたくさん京都に根付いていってもらいたいと願ってやみませんし、情報センターもその一助を担えればと思います。

2009.3.1