妙心寺北門に程近い、静かな住宅街にある梶谷邸。ここを京町家ファンドの制度を使って昨年改修され、今年から住み始められました。今までの経緯や京町家に対する思いなどをお聞きしました。 松井 薫(情報センター事務局長)
――京町家に興味をもたれたのは、どういういきさつでしたか。生まれ育った家は普通の家で、大学を卒業して東京で働き始めました。東京は家賃が高く、まともなところにはとても住めませんでした。初めに住んだのは、ワンルームの狭いもので、部屋の四隅のどこにベッドをおいてもどこかのドアにあたったりするような窮屈なものでした。しかも仕事が忙しく家には寝に帰るだけの生活でした。職場や周りの環境も夏にはエアコンでガンガン冷やすし、体の調子もおかしくなってくるし、一口で言うと生活感がないのですね。東京というところでずっと生活していきたいとは思えませんでした。 ちゃんとした生活感のある暮らしをしようと思ったきっかけは、子供を授かったことでした。が、もともとインテリアにも興味があり、古いもの、骨董なども好きで、和家具にも惹かれていました。ワンルームには和家具は置けなかったけれど、アンティークの小物を置いたりしていました。また周りの友人たちも京都の町家のカフェを雰囲気があっていいとか「懐かしい」感じがすると言っていたので雑誌の写真などを見てみると、「何だ、京都のおばあちゃん家そっくり」と思ったこともあったりして、妊娠をきっかけに京都に帰ることにしました。 ――実際に住んでみて、いかがですか。
――このあたりも次々と古い家が壊されて、風景が変わってきましたね。 そうなんです。ちょうど世代交代の時期なのでしょうが、空き家になって、家が次々と壊されていっているのです。ここを改修して住みだしてから、結構問い合わせもありますし、知り合いが中を見せて欲しい、といってくることも多いですから、こういう家や生活に興味がある人はたくさんいると思いますが、京町家減少の歯止めにはつながっていないのでしょうか。私から見ると、京町家はモダンでかっこいい、と思いますし、この家の格子越しの光なんて、本当に美しいですよ。そういうものに包まれて過ごすのは本当に豊かだと思いますし、生活の中に美があるのはしあわせです。 ――もっとこの町家の美しさや良さを知ったら、住んだ経験のない若い人でも、きっと町家を大切にしたいと思うでしょうし、住みたいと思う人も増えると思いますよ、という言葉は、私には、我々の活動への応援歌に聞こえました。 2008.11.1 |