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京町家情報センター
京町家に移り住んで──中尾邸

 車の多く通る道から、1本入った静かな通りの長屋建ての1軒に、結婚を機に住むことになった中尾さんご夫妻を、久しぶりに訪ねてお話を聞きました。
〈松井 薫(情報センター事務局長)〉
──ここで生活を始められてから、何年ですか。
 情報センターを通じてここに住み始めてからもう2年になります。実のところ最初の夏は、暑さにかなりまいりました。夜どうしても眠れなくて、1階で寝てみたり、いろいろしてみたけど、最後はとうとうエアコンを入れてしまいました。それでやっと眠ることができるようになったのですが、主人はエアコンなしでも平気だったみたいで、私が眠れないでまいっているのに、横で汗かいてグーグー寝てました。結構、個人差もあるのかもしれません。冬も、情報センターで聞かせてもらったように、家全体を暖めることはせず、いつもいる部屋だけは暖めるようにして過ごしました。だから通り庭は、本当に寒く、それも足元からじわーと来る感じの寒さで、人研(じんとぎ)の流しでの台所仕事はもうほとんど「修行」といってもいい感じでした。ですから一般的な意味で、住み心地はと聞かれたら、住みにくいということになるでしょう。

──現在は町家での生活をどのようにお感じですか。
中尾邸  何といっても庭があるのがいいですねえ。ここから見える庭の向こうに、かえでの木があるでしょう。あの木を眺めているだけで季節を感じることができます。春は若葉が美しいし、夏は葉の繁った感じが涼いし、秋はもちろん紅葉がきれいですし、冬は冬枯れの風情と、見飽きることがありません。また、春には小鳥の声で目を覚まし、夏にはセミの声がやかましい、といった外の自然の音もよく聞こえます。それと、部屋の中の空気が何となくさらっとしていて、特に今の季節は庭からの風が気持ちいいですし、緑がとてもきれいです。
 1年目はきつかったのですが、今は、夏は暑いもの、冬は寒いものと考えて住んでいます。町家は細長いので、真ん中あたりはどうしても暗いことが多いのですが、太陽が照ってくれると中まで結構明るくなるので、ここに住むようになって、お日様が有難く、晴れの日がとてもうれしいと感じます。

──ご近所との付き合いはいかがですか。
 すぐ前の公園で地蔵盆があるので、1年目から参加しました。2年目には家の2階からロープを前の公園に張って、地蔵盆の景品を入れたかごをすべらせて下ろしたりして、参加しました。住み始める前は、初めての土地で不安でもありましたが、ご近所の方々には親切にしていただいています。道路に面したミセの間を、七宝焼きの作業場にしているのですが(そういうことのできる家を探して、町家にたどり着いたのですが)、作業をすることに関しても、とてもいい環境で住んでいると感じています。

──今後はどのように住んでいきたいとお考えですか。

 これからは、七宝焼きの作品も少しずつは見てもらえるようにしていきたいと思っております。そういう目で見直すと、通り庭の土間のあとから工事したところが色違いになっていて、これをきれいに直せないかと思ったりしています。やっと、そういうところに目がいく余裕ができてきたのでしょうか。庭を見ていても、ブロックの塀をナントカしたいなとか。これからは、もっと町家の生活を楽しめるような気がしています。

──お二人のにこやかな笑顔が、町家での生活の満足度をよくあらわしておりました。

2006.7.1