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京町家情報センター
京町家に移り住んで──北井邸

 以前、学生を卒業したら和の小物の制作、販売の店をしたいと情報センターに町家を探しに来られていた北井さんが、西陣の町家で住みながら和の小物の店「おはりばこ」を開かれて2年、今回大徳寺の近くの町家に移住して「おはりばこ」を再開されました。和の小物がきれいに並べられた店の2階でお話を伺いました。
〈松井 薫(情報センター事務局長)〉


北井邸
――どのようなきっかけでこうした形のお店を始められたのですか。
 お店を始めたのは2年ほど前からです。私の両親がもともと和装関係の仕事をしていたのですが、学生のころまでは家業を継ぐというような意識はほとんどありませんでした。しかし、和装業界の型通りではなく新しい形で仕事をしてみたいと言ったことに対して周囲の人も賛成してくれ、それならばやってみようと考えて、現在のような形で仕事を始めました。
 和装業界にはすでに出来上がった権利関係や流通形態、階層のようなものがあります。その中では、最終的に商品が販売されるときには非常に高い価格になってしまうことや、それに反して職人さんがあまり大切にされているように思えないという現実があります。このような状況に問題を感じており、ここでは複雑な経路で仕入れや販売をするのではなく、ここともう一つの工房とで小物をつくらせてもらいお店とインターネットとで販売する形をとっています。もとはインターネットでの販売から始めたのですが、店に来てもらえると実際にものを手にとることができるので、お客さんには喜んでいただいています。

――以前から、町家に思い入れがおありだったのでしょうか。
  私はずっと京都に住んでおり、このような家はあたりまえに身近にあるものでした。そのため、特に昔から町家のような古い家に思い入れがあったというわけではありませんでした。学生の頃海外を旅するようになり、今までの環境の外から眺めてみたときに、はじめてこういった家の存在に気づくものがありました。町家に住むことを考えるようになったのはそれからですね。

――実際にお住みになって、どのようなことをお感じでしょうか。住む前に予想されていた町家と実際とのギャップはありましたか。
 住むにあたっては、憧れを抱いてというよりもどんなもんだろうかという興味が大きかったので、特に住み始めてギャップを感じることというのはないように思います。
住むところと仕事をするところが一緒だということについては、家族がいるならば仕事とプライベートが切り離しにくくて不便に感じるかもしれませんが、私は現在独身ですので、考えたことをすぐにやってみることができ、お客さんの声にもすぐに対応できますし、仕事とプライベートということでの境目もうまく作ることができているのでよかったなと思っています。
 あらためて気づいたことといえば、季節を感じるようになったことでしょうか。寒い日が続く中で本当に春らしい日がある、というような変化を実感することができます。春夏秋冬という言葉に縛られて季節を考えてしまいがちですが、季節の移り変わりは本当に2週間ごとぐらいで変わっていくのを感じています。ここはお向かいに植木屋さんのいろいろな木が植えられているのですが、紅葉の一番美しいときを見逃さずに見ることができる、というようなことはとても贅沢なことだと思います。桜の木もあるので、今年は桜の季節を今から楽しみに、わくわくしているんですよ。もちろん夏暑い、冬寒いということはあり、不便だといったらそうかもしれませんが、寒さを感じられることもまた贅沢なことだと思っています。

――着物姿でていねいに質問に答えていただいている雰囲気が、町家にとてもよくあっていました。

2006.3.1