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京町家情報センター
京町家に移り住んで──中西邸

 「楽町楽家」で「流通途上町家」としてアートイベント会場になった家を、それがきっかけとなって借りてもらうことが出来ました。こちらとしては思惑が当たった、という感じですが、話を聞くと、それだけではなかったようです。
〈松井 薫(情報センター事務局長)〉


中西邸
――まず、ここに住まわれるまでの経緯を聞かせていただけますか。
中西さん ここに住む以前からチョコレートをつくることはしていて、注文をいただいて作り、届けたり受け取りにきていただいたり、ということをしていたんです。でもそれではやはり行き届かない面も多かったので、しっかりした拠点となるお店を持ちたいと思い場所を探していました。しかし住みながらお店をするとなると、広さの問題や店舗とするにあたっての法的な規制、彼女(シェリーさん)のかねてからの希望として自然であることやこういった古い家がよいというのがあったこと、また子供がいて、犬も一緒に暮らせて、とクリアしなければならない条件が多いこともあり、なかなかよい場所が見つからずにいました。
この家は、お隣に彼女の知人の方が住まれているということで、以前から存在は知っていたのですが、どうやって持ち主の方や不動産と連絡をとればよいかなどがわからずに過ごしていました。そんな中で「楽家町家」のイベント準備がここでされているところに通り掛かって、そこで話を聞いてみたところから、今こうして住めるまでに至っています。
シェリーさん 楽家町家のイベント準備をしていた学生さんたちを通して、不動産の方に話を聞くことができました。そのときに、床の間の上の棚から以前ここに住まれていたご家族のものらしい写真が出てきたのですが、そこに一人だけ外国の方が写っていたんですよ。これは何かの「縁」だと思いましたね。

――この家はしばらく空き家になっていてかなり傷んでいましたが、改修はどのようにされたのですか。
中西さん 改修や、緑が生い茂って大変な状態だった庭の手入れも、知人の手を借りています。この部屋の障子(桜のすかし模様になっている和紙が張られている)も手すきの和紙を作っている知人がいるもので、そこで買わせてもらったものです。また、お店のPRに関しても、お金を掛けるのではなくて知人のつながりを通してさせてもらっていますね。

――実際お住まいになって、感じることはありますか。
中西さん こういった家は内と外がゆるやかにつながっていて、これから冬になって寒いというのはもちろんあると思うんですが、内外がぴったりと隔てられていないことはとても心地よいと感じています。また訪れてくれるお客さんにも、年配の方なら「懐かしい」と、大阪など遠方から来られる方は「京都らしい」と喜んでいただけますね。ここは大通りから少し入っただけですがとても静かだし、庭も広く、通り庭の上には窓がついていて調理をする場所も明るく、心地よく過ごせていますから、本当に住めてよかったなと思っています。
シェリーさん 私はずっと以前から内と外のつながりや、椅子ではなく床に座るという日本の生活の仕方に心地よさを感じていました。また、騒がしく、ものが多い現代的な暮らしはあまりよいと思いません。日本は昔、ものは多くはなかったけれど、一つ一つのもの、例えばゆがんだお茶碗などにも美しさを見出していたし自然に対してもそうです。それは独特な考え方です。でも今の日本ではものが多すぎてそういった感覚が薄くなっていると思います。夏にはここでは蚊帳を使っているのですが、日本の人は今はもう蚊帳を使わないですよね。蚊帳の中はまるでお母さんのおなかの中みたいでとても気持ちいいのになぜだろうと思ってしまいます。

――今後は、静かな音楽を聴きながら、夕食を楽しんでもらうようなこともしていきたいと話される中西さんとシェリーさんを見ていると、われわれの思惑なんかじゃなくて「縁が熟した」からこそ、ここにたどり着けたのだ、と思わずにはいられませんでした。

2006.1.1