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京町家情報センター
■京町家に移り住んで…作石邸

 わら天神の近くの小規模な町家が空いているので貸したいとの相談があり、雨漏りなどの補修工事を終えて貸すことになりました。借りたのは、現在大学で中国語を学んでいる中で、自分が日本の文化を知らないことに気づき、京都の茶舗を就職先にえらんだ学生さんです。床の間のある、2階の奥の間でのインタビューです。
〈松井 薫(情報センター事務局長)〉

――なぜ、町家に住もうと思われたのですか。

作石邸
 僕は日本文学が好きなんですが、こういうところって文豪が文机を置いてひじをついて、はあーってやってそうじゃないですか。そういうことを自分もやってみたいなあと思って。そういう趣きですかね。すき間風が多いとか、不便なこともたくさんあるんですけど、便利であるよりも趣きを自分は取りたいと思ったんです。

――この部屋はものがほとんど置いてないですよね。
 そうですね。前のアパートにいたときは、部屋にたくさんものがあったんですよ。近くにいろいろなものがあるほうが便利ですしね。でもここでは、できるだけものを置きたくないなあと思っています。そうすると広々と見えるし、広いとゆとりがある感じがするので。何よりも、そのほうがこの家に合っていると思います。僕は料理が好きなんですけど、台所が土間で段差があって、少し不便に感じますが、逆に段差のところに腰掛けて料理できる便利さもありますし、2階の床がぎしぎしいう所はそっと歩いてやらなくちゃと思うこととか、家に気を使うというか「家に合わせよう」と思います。そういう感覚は前のアパートに住んでいたときにはなかったですね。

――引っ越してきて、近所づきあいなどはあるんでしょうか。
 隣のおばあちゃんとは、もののやりとりをしたり、会った時は立ち話をしたりします。雨が降ってきたのに、外で30分ぐらい話していたこともありました。この家の周辺を歩いてみると、和菓子屋があったり、豆腐屋があったり、少し古い食堂があったりしていろいろな発見があります。京都には観光ガイドにも載っている有名な店が多くありますが、そういう店は有名になることで垢がついてしまう気がして、魅力を感じません。自分が見つけて、自分がおいしいと思う店を近所で発見するのは喜びです。


床の間
――町家に住んでいて、不便だと感じるところ、よいと思うところはありますか。
 不便なことは、まずトイレですね。トイレは庭を通っていくのですが、寒いし、和式のトイレなので洋式に慣れている身としては辛いです。足が筋肉痛になりそう。引っ越してきてすぐは台所に明かりがつかなくて不便でしたが、電球が切れていることに気づいてとりかえたら明かりがついて、その時は本当にうれしかったです。エジソンありがとう! と思いました。不便な状態を経験しないと、便利な状態が「便利だ」とわからないと思います。電気の容量が少ないというのも不便なことの一つなんですが、僕は夏にクーラーもつけないし、これは不便だけどそんなに苦にはならないことです。いいところは、やっぱり友達をたくさん呼べるところかなあ。寒いですけど、寝袋もってきてもらったら5人でも6人でも泊まれますし。この家を借りることができて本当によかったですよ。

――床の間の横には「おんな泣かせ」と「くどき上手」というお酒のビンが飾ってありました。中身はカラでしたが。