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京町家情報センター
■京町家に移り住んで…恩地邸

 五条坂の人通りが、少し入るとウソのように静かになります。再生研会員でもある恩地さんに借りていただいた町家はそんな場所にあります。かなり傷んでいた町家でしたが、貸主と借主が協力して再生工事が実現し、(工事の詳細は作事組のページ参照)美しく甦った町家で快適にお住まいの恩地さんに、今回も学生たちがお話を伺います。
松井 薫(情報センター事務局長)

――この町家に住むことになったいきさつを教えてください。
 もともと東京に住んでいて、京都に移ってから始めはマンションに住みました。すぐに「日本家屋」に住みたくなり、引っ越しました。それから、子どもたちが一人立ちしていき、夫婦2人が住むには大きすぎるようになったので、自分たちの身の丈にあった暮らしができる町家を探し始めました。なかなかいい町家が見つからず、どうしようかなと思っていた時にこの町家を紹介されました。初めてこの家を見たとき、家全体が傾いているし、中も使われていなくて傷みがあり、住めるような状態には見えませんでした。ところがその後、この家を何とか残して使ってほしいと情報センターに相談された、持ち主の方と話をしてみると、この町家に対しての思いがとてもよくわかり、この家に住んでいけそうだと思いました。またその時に、この家をつぶしてしまうことは、この家の思い出をなくしてしまうことなのだな、と感じました。

――この町家の中に、現代の生活をどう持ち込まれましたか。
 この家は真ん中から沈んでいて、柱を元から持ち上げなくてはなりませんでした。しかし、柱の傷んだ部分を取り替えたり直したりすることは、昔から行われてきて特別のことではありません。自分の家を手入れすることは当たり前のことだと思います。この家にはお風呂がなかったのですが、そこは現代の生活に合わせてお風呂を作りました。京都の町家でよく言われるのが「寒い」ということですが、寒いなら寒いなりに、自分たちの生活をあわせて行けばいいことです。台所と居間の間も段差をつけていますが、少しの段差が老人にとって危険なので、はっきりと段差をつけたほうが逆に危なくないと思います。また、台所と座敷が同じ高さでつながっていると、境い目がなくなってしまいます。台所は台所、お座敷はお座敷というように仕切りをつくり空間を分けたいという気持ちもありました。

――実際に町家にお住まいになってみてのご感想は?
 町家は部屋に物を置かなくても、貧相な感じはしません。逆に町家の美しさが際立ちます。一度建具を全部アルミサッシに変える話がでたことがありましたが、それはやめてほしいとお願いして、古い建具を全部直して使いました。建具一つ一つの線が細いので、それが町家の美につながっています。昔の材料はいいものを使っているので、新しい形に作り変えて使うことができます。かなり傷んだ状態であっても、手を入れればびしっと変わるということを実感しました。また必要以上に部屋を明るくしないことが大切だと感じています。今の蛍光灯は明るすぎます。ほの暗い部分や、ものの影の美しさをこの家では大切にしています。「普段の生活をつつましく、使うべき時は惜しまず使い、ものは買わないけれど、ことにはお金を使う」という生活をしたいと思っています。

――ありがとうございました。